▶ PROFILE

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長野麻子(ながの あさこ)氏

愛知県安城市生まれ。1994年に農林水産省に入省、2018年から3年間林野庁木材利用課長として、木材利用を促進するため「ウッド・チェンジ」を手掛ける。豊かな森を次代につなぐという目的で2022年6月に早期退職、同年8月に日本の森を盛り上げる会社「モリアゲ」を設立。

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塩川典子(しおかわ のりこ)氏

三菱地所ホテルズ&リゾーツ株式会社「ザ ロイヤルパークキャンバス 札幌大通公園」総支配人。パーソンズ・スクール・オヴ・デザイン卒業。米国から北海道に拠点を移し、2007年より北海道内リゾートに進出した外資系企業にてセールス&マーケティング部に属し、主に新規事業開発と運営のリブランドを担当。現在、ロイヤルパークホテルズ初出店となる札幌で総支配人を務めている。

地域の森林や木を使うことで、人や地域や産業はいかに活性化するのか、気鋭の二人が全国の木に関わる地域や事業者を訪ねていま感じていること、木を使う効果やメリット、木材利用の今後の可能性について語っていただきました。


長野

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近年、木材利用が注目されていますが、コロナ禍のなかで、家に引きこもらなくてはならなかった期間が長く、自然と関わりたいという欲求は増していったのかなと思います。都市(まち)の木造化推進法もあり、金融やファストフードなど多様な業種が木材利用に取り組む協定を結んでいます。これまで木や森と直接、接点のなかった業種も進んできましたね。

塩川

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私どものホテル「ザ ロイヤルパークキャンバス札幌大通公園」は2021年10月1日にオープンしました。国内初の高層ハイブリッド木造建築で、11階建ての建物の9階から11階の3階部分が100%木造建築、使われている木材の8割は北海道産です。北海道を体感するというコンセプトのもと、道東の留萌や北見の郊外、美幌あたりで伐採した木を、旭川で製材、CLTに加工して、札幌まで運びました。開業から3年目に入りましたが、インバウンドも含め旅行需要が復活したこともあり、おかげさまで売上は好調です。海外からネットやインスタグラムで探して、これいいな、ということで予約いただくケースが多いようです。現在、稼働率は80%超となっています。

北海道産材にこだわった洗練された空間

長野

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木を使っている現場を見ていると、活気のある地域の共通点は若い人が頑張っていたり、現場が楽しくやっていたりといったことかもしれません。例えばシンボリックな公共建築を建てる場合でも、大量の木材調達が必要になるので、建築側と森林側の関係者がひとつにまとまって取り組んでいる地域は元気ですよね。徳島県のあらわしの木造4階建ての県営住宅(awaもくよんプロジェクト)は全国に先駆けて実現した公共建築物で、カーボンニュートラルの取組を推進する先進的モデルとなる木造建築です。実際に建ててみて、大変だったけど面白かった、楽しかったという意識を共有した人たちが、次はここもやってみよう、と民間の建物に広がっているという動きがあります。まずは一歩踏み出すということが大事です。

徳島県のあらわしの木造4階建ての県営住宅

塩川

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北海道では郊外の観光地へ行けばログハウスを中心に木造建築はたくさんあると思うのですが、都市部で木造建築を提供しているのは珍しく、利用者の方に響いているのだと思います。当初は上層3階部分の木造の客室と3階から6階までのRC構造、7、8階のハイブリッド構造の客室は同じ金額にしていました。オープン後、口コミで「木の部屋はやはりとても良い」「木に囲まれて安らげる」「木の香りがよく、この安らぎはやはり木ならでは」といったグッドコメントを多くいただきました。木造の客室の価格を引き上げた今でも大人気です。都市型ホテルでここまで木をふんだんに使っている建物はなかなかないと思いますし、木がスタイリッシュな空間として捉えられていることを嬉しく思います。

上層3階が木造となっている札幌市中心部のホテル

長野

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自然に触れる時間がなくなり、情報過多の時代でストレスフルな状況が多く、私たちの脳や心がそこに追い付かずにいろんな不調がでていると感じています。日常生活の中で自然のものに触れて、森から生まれた人類のDNAが呼び起こされているのではないでしょうか。森への入口として木の空間があり、森と人がつながっていく、さらに森と街がつながっていく。飛騨市では広葉樹のまちづくりを実践しています。川上から川下まで関係者でコンソーシアムを作り、広葉樹でオフィスまで建てました。地域にある素材を見直して、それを使って新たな産業を興していく、これは森林を有する多くの地域に活かせるものだと思います。こうした取組が海外も含めて様々な人を地域へ呼び込んでいる気がします。

飛騨市の「森の端オフィス」は広葉樹を活用

塩川

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どの業界も同じかと思いますが、スタッフの定着や人手不足は課題です。林業でも若い人が頑張って、楽しくやっていることが大切というお話がありましたが、ホテルも全く同じで、若いスタッフはSDGsへの取組や地産地消で北海道産を使うというコンセプトに共感し、ここで働いている誇りを持っていると思います。おかげでスタッフの定着率も高くなっています。

長野

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自分の足元を見つめ直すと、地域のオリジナリティや歴史が見えてきて、地方創生につながっていくと期待しています。活動を共有した人たちのチームができて、まずは小規模建築から始め、サプライチェーンの輪が広がっていくとさらにその先につながると思います。地域材の利用により森の手入れが進み、森と街がつながり、地域に広がる森を想う人が増えたら、豊かな森を次代につなげていけると思うのです。

塩川

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ホテル業という視点から見ると木を使う魅力が見えてきます。例えば地域材を使ってSDGsへ取り組むといったこともそのひとつですね。自然や地域に寄り添ったライフスタイルが無理なくてよい、と感じている方が増えていると思います。当ホテルのターゲットとなるミレニアル世代、Z世代の方々はSDGsやサーキュラーエコノミーがすでに日常となっていると思います。共通のライフスタイルや価値観を持つ方々は、日本人、外国人関係なくこうした場所を支持してくれるのではないでしょうか。それが木の持つパワーだと思います。

長野

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まず使ってみるということが大事ですね。使ってみるとメンテナンスはどうすればよいか、わかってきます。木の持つ効果、効能はすでにいろいろなエビデンスが存在していますので、こうした情報も活用していくとよいですね。塩川さんのお話にあった、木は集客力にも貢献するという事実はとても心強いですね。今はどこでも働ける時代になったので、オフィスもわざわざ行かなくてもよい場所になってしまったように感じるのですが、木が持つ生産性向上や集中力が増すといった効果を活かして、オフィスでも目に触れるようなところに木を使っていくと、多くの時間を過ごしたくなる場所になり、そこからまた広がっていくのではないでしょうか。

オフィスの木質化で生産性向上などの効果も期待(写真はイトーキ本社オフィス)

塩川

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木の空間の香りは五感に訴えるという面でとても大切ですね。木造の階の床はトドマツの無垢材ですが、「スリッパいらないね」「気持ちがいいからスリッパを脱いで歩きました」というコメントもいただきました。室内のスピーカーも北海道産のトドマツ製ですが、こちらは建築端材を使っています。ホテルの1階はオールデイダイニングで、一番手前のハイカウンターにCLT材を使ったり、北海道をイメージさせる本物の白樺を装飾に使ったりしています。ホテルですから、非日常的な雰囲気を味わっていただくという意味でも、存分にリフレッシュいただける空間になっていると思います。

客室も木をふんだんに使った。スピーカーも北海道のトドマツ製。

長野

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農産物は国産を意識している方も多く、トレーサビリティが一般化してきていると思いますが、木の産地を確認する消費者の方はまだほとんどいないと思います。この木はどこから来たのか、その森林はきちんと再造林されているのか、を意識することが大事ですね。サステナビリティを確保できる木の使い方が大切で、森林の循環の中で再生産される木を使うことが様々な分野で広がるとよいと思っています。

塩川

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開業以来、お蔭様で視察は300回を超えました。その時に私が必ずお伝えしていることがあります。木は年数を経たからこその美しさがあると思うので、ホテルとしてそれをどう活かしていけるかが、これからのチャレンジだということです。そうした価値を大切に思っていただける方にまたお越しいただく、お仲間を連れてきていただくことが夢です。皆さん、本当に真剣に話を聞いていただき、木に対する期待は全国レベルのうねりになっているなと感じているところです。