▶ PROFILE

main 1

木村靖夫(きむら やすお)氏

千葉県出身。1987年から東京慈恵会医科大学附属柏病院に勤め、腎臓・高血圧内科診療部長を経て2004年3月退職。同年4月から医療法人社団中郷会新柏クリニック院長、2014年9月退任。現在は中郷会アドバイザーとして診療に従事。

千葉県柏市にある「新柏クリニック」は透析専門クリニックです。透析とは、腎臓の機能を人工的に代替えする治療を指しており、一般的には週3回の通院で、1回あたり4時間ほどの治療を行います。木質感があふれるこの病院を建築した目的、その効果について、前院長の木村靖夫さんにお聞きしました。


――新柏クリニックの概要を教えてください。

人工透析専門の120床の診療所です。
「森林浴のできるクリニック」をテーマに開放的な空間を目指してきました。
建築としては、看護のしやすさと患者の安全安心のために透析室を一室空間にしており、耐火集成材の柱と梁を門型状に連続させて、広々とした空間としています。透析室の天井と外部の軒天井はヒノキを使っています。

また、2017年にはリハビリを兼ねた散策ができる「めぐりの庭」、2020年には糖尿病専門の診療所である「新柏クリニック糖尿病みらい」が完成しました。

▼ クリックすると大きく表示できます

写真-1 新柏駅からすぐ。植栽に囲まれたクリニック。

▼ クリックすると大きく表示できます

写真-2 木の門型フレームによる大空間を実現した透析治療室

▼ クリックすると大きく表示できます

写真-1 新柏駅からすぐ。植栽に囲まれたクリニック。
――病院の木造・木質化に取り組んだ経緯は何ですか。

当時、施設を建て替えたいという希望をずっと持っていたので、全国さまざまな施設を視察していました。

しかし、これだ、というものがなかなか見当たらなかった。
そんなある時、テレビ番組で木造・木質の大型建築物の特集を見ました。そこでは木目調の柱がずらりと並んでいて、これは良い、と思ったのがきっかけです。

その建築に関わっていた竹中工務店の女性の設計者の方には大変お世話になりまして、女性目線で空間の工夫を作りこんでいただきました。


――設計を進めるなかで、特にこだわった点はどこでしょうか。

▼ クリックすると大きく表示できます

写真-3 東西60メートルの直線の通路。
    

視認性もよく、車椅子の通行も楽に。

患者さんや治療を待っている方々にとって快適な空間であることが最も大切です。

当時、新型インフルエンザが流行したこともあり、患者どうしが2メートル以上離れなければならないという条件もありました。
患者同士が対面ではなく、頭合わせのベッドレイアウトにしてベッドの間隔も十分にとりながら、門型状の木のフレームで空間を包むようにしました。
これで動線を確保しながらも、木の温もりに包まれるような新しい透析室になりました。

窓は大きくとり、植栽の木々がよく見えて四季を感じられるようになりました。外光が差し込み、室内はとても明るいので、過度な照明も必要ありません。

――患者さんからはどのような声をいただきましたか。

透析治療は滞在する時間が4時間と長いのですが、私どもの患者さんは透析をスタートしてから10~15分くらいで皆さん、寝ていらっしゃいます。これは木がもたらすリラックス効果だと思います。

透析クリニックはビルの中につくられることも多いので一般的には壁に覆われた空間になりやすいと思いますが、木に包まれた開放感があるおかげで、やっぱりここの空間はいいね、という声をたくさんいただいています。

やはり同じ場所に長時間いる必要がありますので、患者さんの方々もふさぎがちになったり、不安になったりといった心配もあると思いますが、この空間では皆さん、リラックスできていると思います。


――木造にして、以前の施設との違いを強く感じられているということですね。

施設の引っ越し前と引っ越し後に患者さんへアンケートをとり、その結果を分析しました。

旧クリニックでは、気に入っているところについて「人物や設備」が多かったのに対し、移転後は「建物・設備」の出現比率が多くなりました。

また最近1週間の気持ちの分析結果では、「緊張、不安」や「抑うつ、落ち込み」などの陰性気分を低下させる効果が有意差をもって認められています。

通院や治療に対するネガティブな気持ちが軽減されることで、日々の暮らしも前向きになれると感じています。

――このクリニックで働いている方々にも良い影響があったとお聞きしています。

スタッフも空間の開放感や窓の向こうに四季を感じられることなどに良い印象を持っているようです。

看護師募集では、ホームページからの公募で対応できている状況です。
スタッフの定着率も高く、居心地の良いクリニックになっているかなと感じています。

地域の中学生の職場体験を実施しているのですが、病院というとちょっと敷居が高いイメージがあったと思うのですが、実際に内部を見てみるとすごい気持ちのよい場所だね、と中学生に好評です。


――クリニックの向かいに設けられた「めぐりの庭」はどのような目的で生まれたのでしょうか。

クリニック前の空き地を利用し、患者さんの運動公園を目指した庭を作ってはどうかと考えたことがきっかけです。

車椅子でも回遊できるスロープやちょっと小高くした丘のような場所があり、歩くだけで運動になります。
実際、万歩計をつけて計測したところ、通常、透析患者の場合、1日4000歩ほどを目標に歩くところを、80代の方で8000歩歩いている例もあります。運動量が圧倒的に多くなっていますね。

ただ道を歩くだけではなく、道に遊び心のあるサインがあったり、スタッフのご家族と一緒につくった鳥の巣箱があったりと、気持ちよく散策できるような工夫もしています。

歩けるという自信がつくことが大切で、そうなると意識も変わってきて、例えば買い物に行ったときもあえて遠いところまで歩くようになった、などの意見もあります。

▼ クリックすると大きく表示できます

写真-4 透析患者に必須の運動を促進するための場「めぐりの庭」

▼ クリックすると大きく表示できます

写真-5 散策路には飽きずに歩きたくなるサインの工夫も。

――2020年には糖尿病専門の診療所である施設もできました、これも素晴らしい木の建築ですね。

「新柏クリニック糖尿病みらい」は糖尿病治療に特化したクリニックです。
透析療法を受ける方の約半数は糖尿病由来であり、食事、運動、薬物療法の3つで治療を行います。ここにも快適な空間を提供したいと考え、木と緑をふんだんに使った施設としました。

エントランスを入ると外光が明るい「森の待合」があります。診療の流れに沿った待合いと、運動・食事療法を行うスタジオをひとつながりの空間にして、庭を囲むように配置しました。
空間は鉄骨の柱とカラマツの梁、ヒノキの天井の混構造になっています。

近年ではデジタル技術による設計、加工も進んでいるので、複雑な屋根の形もできるようになりました。ここも非常に居心地のよい空間と患者さんには高く評価をいただいています。

▼ クリックすると大きく表示できます

写真-6 糖尿病みらいも木材をふんだんに使っており、居心地がよい。

▼ クリックすると大きく表示できます

写真-7 調理スペースやフィットネスのための大型ミラーも併設。
――今後の展望について教えてください。

クリニックですから、まずは患者さんが「癒やされる」ことが大切です。

癒しを感じていただけるところに、木材を利用していくことで、その良さが再認識されるのではないかと思います。
もともと里山があったこの場所に、「健康」と「緑」をテーマにして患者さんだけでなく、地域にも癒しを与える場所をつくりたいと思っています。
いまある3つの施設、空間も含めて「森林浴のできるメディカルケアタウン」づくりを目指しています。