木造建築が注目されている一方で、「木は燃えやすい」「木造建築は火災に弱い」といった考え方は依然として残っているようです。

木という素材の特性、燃えにくい技術、設計の工夫で、鉄やコンクリートと変わらない建築がすでに可能になっています。木造建築の防火・耐火の考え方について、建築士であり、木材利用を促進する団体の理事長も務める安井昇さんにお話をお聞きしました。


――木造は鉄骨造・RC造と比べ火災や腐れに弱いといったイメージが残っています。なぜそのような印象を持たれていると思いますか。それらを払拭するにはどのようなことが必要でしょうか。

木材が腐ったり、燃えたりする理由は「水」と「火」ですので、それらから遠ざけておけばよいのです。外部に出ているところへ対策することが大事です。

古い木造建築で十分な防火対策をしていないものが火災の規模が大きくなる可能性がありますが、耐火構造の場合は出火しても燃え抜けずボヤで終わっているのです。
石膏ボードが普及してからは壁の中に火が入るには15~20分かかり、その間に消防が来ればその部屋だけが燃えるだけですみます。(写真-1)
実は木造住宅の火災はこうしたケースが大多数なのですが、それはニュースには流れません。大規模火災で焼け落ちた例ばかりが報道されがちなので、木造は燃えるものだという誤解があります。

現在は集成材やCLT、LVLなど太い木材、厚い木材、石膏ボードなどを使って様々な木造建築ができています。コンクリート造や鉄骨造と同じ燃え方をする木造ができたため、準耐火、耐火建築物と位置付けた経緯があります。これをきちんと理解しておくことが重要です。

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写真-1 木材の燃焼実験

――先生は「木は本来燃えにくい素材である」と常々、仰っていますが、これはどういう理由からでしょうか。それらが誤解であるということについて、どのようなエビデンスがありますでしょうか。

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表-1 建築素材の主な性能比較

木はどんなに乾燥させたとしても含水率は10~15%はあります。
水を蓄えている分、水がすべて蒸発しない限り100度を超えることはありません。木材は260度を超えると可燃性ガスを活発に発生するのでそれに火がついて燃えるわけですが、蓄えられた水のおかげでなかなか200度は超えません。

また木は燃えると表面に炭という断熱材を自らつくるので、燃えていない部分に入る熱は減ります。もともと木は熱伝導率が低いので、簡単に熱が入り込むことができません。この3つが木は燃えにくい理由だと思います。(表-1)

太い、厚い木材になると燃えたときでも1分に1mmずつしか炭になりませんので、15㎝のCLTであれば30分経っても3㎝しか減らない計算になります。燃えにくいというよりは、内部に燃え進みにくい、と表現するのが妥当かもしれません。(写真-2)

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写真-2 太い木材であれば1分に1mmずつしか燃え進まない


――木造建築における防火、耐火に関する課題、設計や技術面による新たな解決策を教えてください。

防耐火はその他建築物、準耐火建築物、耐火建築物に分けられますが、住宅はほとんどがその他建築物なので、住宅を設計してきた人は準耐火、耐火の建築についてはあまり想像がつかないかもしれません。

一方で鉄骨、RC造の建築を設計してきた人はほとんど準耐火、耐火の建築物に対応してきたので、躯体が木材に置き換わるだけなので、理解が早い傾向があると思います。

今では主に住宅をやってきた設計者も今後、非住宅へ取り組もうと考えるようになっています。500㎡、1000㎡くらいの規模の施設であれば、住宅3~5軒分くらいなので住宅建築の技術を使うことが可能です。
このくらいの規模ですとその他建築物か、準耐火建築物になります。これから面白い分野はこの領域かもしれません。燃えしろ設計や石膏ボードで被覆しながら45分~1時間持つ建築物をつくっていくということです。(写真-3)鉄骨を大断面集成材に置き換えた2~3階建ての非住宅系の木造建築物は今後も増えていくでしょう。

例えば平屋の保育園はその他建築物ですが、これですと内装制限が厳しくなります。なので一段階性能を上げて準耐火建築物にすると内装制限がかかりませんので、設計の自由度もあがります。
準耐火で最も多いのは3階建ての住宅や共同住宅です。建材も大臣認定を取っているものが多く、設計の自由度も上がっています。

準耐火建築物では木材がゆっくりと燃える性質を利用した外壁に木材を使った建築も増えています。(写真-4)木の表情を見せたいと考える施主や設計が増えていることもその背景にありますね。

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写真-3 木造耐火建築物を支える様々な技術や建材が出てきた

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写真-4 木材を太く厚く使う、木材の防火外壁の例

――中大規模の木造建築や非住宅建築物の木造・木質化が進んでいますが、その実現にあたって どのような課題と対策が考えられますか。それを支える技術や工法などのトレンドについて教えてください。

防火の法律は大きく分けると3つあり、一気に燃え広がらない内装の仕上げをどうつくるか、燃え広がった時に大きな部屋が同時に燃えないように区画をどう形成していくか、火災の際に躯体が倒れるのをどう防ぐか 、です。(図-1)

内装制限は天井が肝になります。天井に着火すると火が回るのが早いため、区画を小さく区切ることです。内装制限は100㎡で区画を区切ればはずすことができます。どのタイミングで火を止めるかを考えて設計することが大切になります。

また設計者は地震の現場で住宅が倒壊している現場を見ることはできますが、火災の現場で例えば木造の建物がどういう経路で、どのような燃え方をしていくのかを実際に見ることはほとんどありません。

実は火災の場合はどこからどう燃え広がっていったのか、その過程を知ることが重要です。木造の燃え方を知らないと対策もできないのです。

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図-1 火災の外力は2つ。燃え抜けない、燃え拡がらない工夫が大切だ


――これから木造建築の設計や木造に取り組みたいと考えている技術者、事業者にアドバイスをいただけますか。

これまでの大規模建築物は鉄、コンクリートといった燃えない素材でいかにつくるか、で考えられてきましたが、日本はもともと木という材料で建物をつくってきた歴史があります。

現在では木材をどう使えば安全な建築物ができるか、を考えた技術開発も進んでいます。(写真-5)木材、鉄、コンクリートが同じ土俵にのってきたので、建築の選択肢が増えたということです。

木の良いところを引き出す建築が増えていくことが最も望ましいと思います。用途や規模、意匠含めた設計、建築の自由度が増えた面白い時代に入ったのです。

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写真-5 木材のゆっくり燃える性質を長所と捉えれば活用の幅が広がる