汎用材で構成した木造立体トラスが存在感を持つ園舎内で、子どもたちが存分に木に触れながらのびのびと活動できる空間づくりが素晴らしい。周囲の環境と調和した「森のようちえん」の実践例として、本賞にふさわしいものと評価した。地域の大径広葉樹を活用した家具開発など、子どもの学び、地域の森林資源活用、地元事業者の技術とのパートナーシップ構築という三位一体の取組である。
ウッドデザイン賞受賞作品
「ウッドデザイン賞」は、木を使って様々な社会課題を解決する、優れたデザインの建築・空間、プロダクト、活動や研究を表彰し、広く社会へ発信する顕彰制度です。
2015年に創設され、今回で10回目の開催となります。ウッドデザイン賞2024の応募総数は366点、そのうち226点が受賞いたしました。モクコレでは上位賞31点を含む、受賞作品を実物、パネル、映像でご紹介します。
最優秀賞
(農林水産大臣賞)
建築・空間分野
ハートフルデザイン部門
学校法人フレンド恵学園(北海道)、株式会社照井康穂建築設計事務所(北海道)、株式会社ジェーエスディー(東京都)、岩田地崎建設株式会社(北海道)、物林株式会社(東京都)
浦河フレンド森のようちえん
最優秀賞
(経済産業大臣賞)
コミュニケーション分野
ソーシャルデザイン部門
ナニックジャパン株式会社(東京都)、株式会社万建設興業(栃木県)、那須塩原市森林組合(栃木県)
自然へのホスピタリティーと森の中の工場
荒廃した森林約5.4haを取得し、約1haを工場用地として利用するとともに、森林の整備を実施して、ワーカーに快適な働きやすさを提供する工場を設置している。従業員のみならず、地域住民や来訪者にも開放しており、地元採用にも貢献するなど、ハードとしての工場に留まらない、地域の森林・木材を活かしたストーリー性ある作品であり、本賞にふさわしい。工場で発生する端材を近隣で木質バイオマス燃料として活用したり、地元森林組合と協働で植樹を実施するなど多様な活動も高く評価できる。
最優秀賞
(国土交通大臣賞)
建築・空間分野
ソーシャルデザイン部門
坂茂建築設計(東京都)、株式会社 家元(石川県)、一般社団法人 石川県建団連(石川県)、株式会社 長谷川萬治商店(東京都)、NPO法人ボランタリー・アーキテクツ・ネットワーク(東京都)
DLT恒久仮設木造住宅
災害対応に必要な短期間での施工、大量の木材調達といった課題に対して、接着剤なしで製造できる技術を応用してその解決を試みた社会提案性の高い作品であり、本賞にふさわしいものとして高く評価した。規格材を使ってパネル化することで、短期間で全国の事業者と連携し木材調達ができる点も有事の際に有効である。また恒久的利用を前提とした設計としており、木材による炭素固定も長期間にわたって実現できる点も時代の要請に応えている。
最優秀賞
(環境大臣賞)
建築・空間分野
ライフスタイルデザイン部門
株式会社ヌーブ(東京都)、株式会社MID研究所(東京都)、株式会社竹内工務店(熊本県)、株式会社ウッディファーム(熊本県)、ランバー宮崎協同組合(宮崎県)、高森町(熊本県)
南阿蘇鉄道高森駅・交流施設
広大なプラットフォームは木の意匠を活かした強いインパクトを持ち、地域住民や駅の利用者、観光客に対して木の魅力を存分に伝えている。阿蘇くじゅう国立公園内に位置する好立地を活かして、その魅力の訴求に成功しており、本賞にふさわしい作品として高く評価した。地元のヒノキを使った「修羅組み」の技術開発は地元工務店や中学生とともに進められ、木材利用への理解促進と脱炭素や環境配慮を施した駅舎の木質化において重要な役割を担っている。
大阪・関西万博特別賞
(国際博覧会担当大臣賞)
建築・空間分野
ソーシャルデザイン部門
クレアプランニング株式会社(福岡県)
ARBOR
同地域が持つ木工の技術と歴史は木の文化と寄り添ってきた日本の重要なコンテンツであり、その発信と体験の場として洗練された空間づくりと多様な活動は本賞にふさわしい。アーティスト、子ども、職人の交流を促し、木工職人という仕事の理解向上と継承を目指しながら、展示手法やカフェの併設など観光拠点としての工夫が随所に見られる。併設される公園に家具の素材となる木を植え、それを加工するなど川上から川下までを可視化できる仕組みも秀逸である。
大阪・関西万博特別賞
(国際博覧会担当大臣賞)
建築・空間分野
ソーシャルデザイン部門
川口琢磨建築設計事務所(東京都)、株式会社IFOO(鹿児島県)、国立大学法人鹿児島大学大学院理工学研究科鷹野研究室(鹿児島県)、株式会社坂田涼太郎構造設計事務所(東京都)、株式會社トクエイ(鹿児島県)
霧島神宮駅前プロジェクト 光来 JR日豊本線 霧島神宮駅
国宝の霧島神宮の最寄駅であり、観光価値を高めるために街の産業である製材業、神宮の森のある原風景を空間に再現した荘厳なデザインである。駅舎の付加価値創造という点で国内外からの観光客に訴求するとともに、高度な製材技術を見せる場としても機能している。御神木と名づけられた巨大な板柱や木柱は、スギの大径木活用につながっており、製材方法の検討プロセスも工夫されている。
大阪・関西万博特別賞
(国際博覧会担当大臣賞)
プロダクツ分野
ライフスタイルデザイン部門
株式会社エコアス馬路村(高知県)
monacca
すでに販売から20年を数える作品であるが、洗練されたデザインとそれを支える加工技術は木を生活に活かしてきた日本の文化を現代に伝えるにふさわしいものである。間伐材の有効利用と地域内生産にこだわることで、世界的な潮流であるサステナビリティ、サーキュラーエコノミーを具体化するプロダクトでもある。売上の一部を森の育成基金へ還元するなど、プロセス単体のみならず、そのストーリー性も世界に受け入れられる特徴であろう。